アメリカのテキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)や、バルセロナのSONNAR、ヘルシンキのSlush、ウィーンのPioneer Festival、そしてベルリンのTOAなどについて、僕は2015年以降より自著や自分が登壇する講演で「ニューカンファレンス」、あるいは「イノベンション」(イノベーションとコンベンションをかけ合わせたマイ造語)として、その潮流と重要性を説いてきた。
その後も多くのエグゼクティブや社員の前で、それが何なのか、また、なぜ日本企業は参加すべきかの講演も行ってきた。
そして、僕は「(特に経営層は)家と職場の往復をしているだけで仕事をしているというのは間違い」「ニューカンファレンスに行って、ビール片手に隣に居合わせた人とまず話してきたほうがいい。そちらのほうが間違いなく生産的だ」と語ってきた。理由を説明するパワポ資料も用意しているが、それについてはいつか発掘して展開するとして、ここでは先に筆をすすめる。
いまや世界は確実にニューカンファレンスを吸収し、ただの展示会からそちらに大きくシフトしている。たとえば、CESは従前のプロダクトお披露目ベースの性格から、ここ近年は企業トップが次代のあるべき姿を自ら表現する場に変化している。また、メルセデスは出展する世界各地のモーターショーを減らし、独自に展開するme.conventionで自らが若々しく、イノベーティブであることをアピールしてきた。まさにニューカンファレンスの魂を宿した立体的なオウンド・メディアである。
旧来の展示会の使命は顧客獲得であり、集めた名刺と商談の数がKPIだ。ニューカンファレンスは、まだ未完成の商品やサービス、ソリューションに協働してくれる企業や個人を探したり、あるいは投資家を見つける目的に使われる。KPIは会社によってまちまちだろう。
それに比べると、展示会はきらびやかなディスプレイやブローシャーを手渡しするコンパニオン(時代遅れだが、まだ多数派)がいて、後者は刺激的なイノベーターたちが世界各地から集められ、熱いピッチを展開する。加えて、バンド演奏やDJによるプレイがあり、昼からアルコールを提供し、くつろいで話せるチルな環境を用意する。そして、そこで出会った者同士の会話を促進したり、サービス/プロダクト開発者や経営者自らが現場で先陣を切って訴えるのも特徴的だ。
無論、世界には両方のやり方があっていい(コンパニオンが必須かどうかは措いておこう)。実はここ数年、まだ製品化されていないアイデアをぶつける場以外にも、イノベーティブな人材や協働者の獲得、市場調査、リブランディング、インターナル・コミュニケーションは、こういった現場にシフトしつつある。
そんな現場のひとつでもあり、「欧州のSXSW」と呼ばれるベルリンの人気テック・カンファレンス「TOA」がコロナ禍の3年に及ぶ休止を経て、今年2023年7月5日-7日に復活することが決定した。首を長くしてお待ちいただいていた皆さんには朗報だ。
僕自身はTOAの日本公式パートナーとして、これまでもTOAに多くの日本企業や自治体の方々をガイドし、同時に市内の注目すべきスタートアップ・エコシステムや、ベルリンにしかない拠点の数々にお連れしてきた。今年、久しぶりの開催を喜ぶとともに、長いコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻以降、どのようにベルリンが変わってしまったのか一抹の不安もある。
「暗号の首都(クリプト・キャピタル)」とも呼ばれるベルリンにおいてweb3系のスタートアップも大変だと耳にする。FTXの破綻による暗号資産の時価総額急落が招いた、資金調達の困難さや風評被害も看過できない。さらに2022年以降、ベンチャー企業への投資が世界的に冷え込んでいる。GAFAMを筆頭とする世界的規模のリストラも成長神話の翳りを色濃くしている。
ベルリンの友人によれば、最後のラウンドで高い評価額で資金調達したスタートアップは投資契約を結べずに、突然の操業資金難を逃れるため、合併を余儀なくされていると聞く。とはいえ、まずは現地を訪れて、不安が憂慮でしかないことを確信したい。
突如持ち上がった「SXSW ベルリン版」計画と地元の反目
さて、TOA復活に至るまで、実はベルリンでは水面化で大きな動きがあった。
ベルリンに本社をもつ世界随一のメディア・コングロマリット、アクセル・シュプリンガーとテキサス州オースティンで開催されるSXSWの主要株主であるペンスキー・メディア(『WWD』『ローリングストーン』などの発行社)は、2023年8月23日から26日まで音楽とテックの祭典(SXSWがモデルのベルリン版)の開催を目論んでいたという。
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